「大学を辞める」という選択は、まだどこか「失敗」の匂いがする気がします。でも、その先に専門学校という道を選んだ人たちは、何を考え、何に迷い、どう動いたのでしょう。20代の3人に、おもてには出にくい本音を聞きました。
はじめに読んでほしいこと──出願に必要な「高校の卒業証明書」─手続きはネットで
3人の話に入る前に、一つだけ共通してお伝えしておきたいことがあります。
専門学校への出願で必要になるのは、「高校の卒業証明書」です。大学の成績や中退証明書ではありません。高校を卒業していれば、専門学校への出願資格はあります。ちなみに、調理師専門学校の1年課程、美容師専門学校の通信課程は、中学卒以上で入学できます。
卒業証明書は、卒業した高校に請求します。多くの高校はウェブサイトに請求方法を載せていて、郵送で対応してくれるところも多いようです。「何年も前の高校に連絡するのはちょっと気が重い」と感じる方もいるかもしれません。でも手続き自体は、思ったよりずっとシンプルです。不安なときは、気になっている専門学校の窓口や入学相談室に問い合わせしてみると、丁寧に教えてもらえます。
まずは、そのくらいの気持ちで大丈夫です。
ケース 1:Aさん(女性・21歳)美容師専門学校 昼間部
Aさん|文系大学2年で中退 → 美容師専門学校 昼間部

退学届を出した日のこと
親に申し訳なくて、退学届を出した日は泣いたそうです。でも今になって振り返ると、大学にいた頃からずっと、「何かがずれている」という感覚があったと言います。
総合型選抜で入った大学ですが、授業に身が入らない。単位は取れているのに、手応えがない。サボっていたわけじゃない。むしろ真面目にやろうとしていた。でも、どこかに向かっている感じがしなかった。
努力の向きが、自分の向きと合っていなかった。それが中退を決めた、一番正直な理由だったとAさんは話してくれました。
美容師、ではなくてアイリストかもしれない
美容はもともと好きだったそうです。でも「好きなことを仕事にしていいのか」という気持ちが、ずっと頭の片隅にあったと言います。大学を辞めると決めてはじめて、その気持ちに正面から向き合えた気がしたそうです。
美容師の資格を取ると、働き方の選択肢がぐっと広がります。なかでも今、アイリストとしての市場ニーズはとても高まっていて、まつげエクステの技術は美容師免許があってこそ活きてきます。独立も視野に入れやすく、自分のライフスタイルに合わせた働き方も作りやすいそうです。「好き」が「食べていける」に変わる可能性が、ここにはあると感じたと話してくれました。
専門学校に初めて足を踏み入れたとき、なんとなくわかったそうです。ここだ、と。中退の罪悪感がすっと消えたのは、その瞬間だったといいます。
「面接だけで入れるの?」と思った
入試は面接のみで、筆記試験はありませんでした。正直、最初は拍子抜けしたそうです。これでいいのかな、と。
でも、準備をしながら気づいたといいます。ここで問われているのは、偏差値でも暗記力でもなく、「この仕事をやりたいかどうか」ということ。それって実は、一番まともな問いなんじゃないかな、と。大学受験のとき、自分はその問いと向き合っていただろうか、とも思ったそうです。
クラスには現役の18歳の子たちもいます。入学前は少し気まずいかなと思っていたそうですが、入ってみると自分以外にも大学を中退した人がいました。それに美容の話になると年齢は関係なくなったといいます。みんな同じところを目指している。それだけで、十分だったと話してくれました。
Q&A「Aさんの本音」
Q. 中退の罪悪感、いつ消えた? 専門学校に初めて訪問したとき。ここだって思いました。
Q. やりたい分野、いつ決まった? 辞めると決めてから、初めて本気で考えました。
Q. 偏差値、今どう思う? 偏差値って何だったのかなって思います。
Q. 年齢差、気になった? 最初だけでした。美容の話になると、気にならなくなりました。
ケース2:Bさん(男性・22歳)IT・プログラミング系専門学校 昼間部
Bさん|理系大学1年で中退 → IT・プログラミング系専門学校 昼間部

理論じゃなくて、AIを使って作りたかった
大学の授業は、理論が中心でした。それ自体は面白いと思っていたそうです。でも、自分がやりたいのはそこじゃないと、じわじわ気づいていったといいます。
AIを使って実際にコードを書く、動くものを作る。理論を積み上げてから応用するより、作りながら学ぶスタイルの方が自分には合っている気がした。そう感じたことが、1年での中退と専門学校への転換を決めた理由だったと話してくれました。
「ずるずる続けるより、早めに動いた方が正直だったと思います」と、Bさんは穏やかに振り返ります。
「なぜここに来たいのか」を、自分の言葉で話す
入試は書類と面接のみでした。大学受験のときの緊張感とは、全然違ったといいます。
でも、軽かったかというとそうでもなかったそうです。「なぜここに来たいのか」を自分の言葉で話す必要があって、大学での経験や本当にやりたいことを話したと振り返ります。暗記したものを答えるんじゃなくて、自分の気持ちをそのまま話す感じ。それがかえって、緊張したといいます。
理系大学にいたとき、自分の価値を偏差値で測っていた部分があったそうです。専門学校に来て、それがすっとなくなったと話してくれました。「偏差値で計れないことの方が大事だと、今は思います」という言葉が印象的でした。中退の罪悪感については、親に本音で話して、専門学校のことを理解してもらえたときに消えたといいます。「親が納得してくれたことで、自分も腹が決まった気がしました」と、Bさんは話してくれました。
一度別の場所にいたことに対する評価と信頼
入学前は、18歳の子たちの中で浮くかもしれないと思っていたそうです。でも実際は、大学を経験しているというだけで、クラスの中で自然とリーダー的な立ち位置になっていったといいます。
「年上だからというより、大学にいたことを凄いと見てもらえた感じがしました。最初は戸惑ったけど、悪くなかったです」とBさんは笑います。「それに、私以外にも大学を辞めてきた人が何人もいます」。一度別の場所にいたことで見えている景色が少し違う。それが、クラスの中での信頼につながっていったようでした。
Q&A「Bさんの本音」
Q. 中退の罪悪感、いつ消えた? 親に本音で話して、専門学校を理解してくれたとき。腹が決まりました。
Q. やりたい分野、いつ決まった? 大学で「違う」と気づいたとき、もう決まっていた気がします。
Q. 偏差値、今どう思う? 偏差値で計れないことの方が大事だと思います。
Q. 年齢差、気になった? 入る前だけでした。入ったら、大学経験を凄いと見てもらえました。
ケース 3:Cさん(女性・22歳)ビジネス系通信制専門学校(映像学習+個別スクーリング)
Cさん|私立大学2年で中退 → ビジネス系通信制専門学校

映像を止められるから、繰り返し見れる
通信制でも学べると聞いて、最初は自分に甘くなりそうで怖かったといいます。映像を見るだけで本当に力がつくのか、半信半疑だったそうです。
でも実際に始めてみると、感覚が変わっていったといいます。大学の講義は一度受講したら終わりでした。でも映像は止められる。巻き戻せる。わからないところを、わかるまで何度でも見られる。「気づいたら、大学の授業よりずっと深く理解できていた気がします」と、Cさんは話してくれました。
自分のペースで進められることが、こんなに学びやすいとは思っていなかったそうです。
通信制の専門学校は、ちゃんと学歴になる
「通信だと学歴にならないんじゃないか」と、最初は不安だったといいます。でもそれは、いわゆる通信教育と、通信制の専門学校を混同していたことによる誤解だったと気づいたそうです。
通信制で学べる専門学校は、都道府県の認可を受けた学校です。卒業すれば、専門学校卒という正式な学歴になります。Cさんはそのことを知って、より楽になったけたといいます。
「働きながら学びたい」という気持ちが最初からあったCさんにとって、通信制はその意思にいちばん合った形でした。隠しながら通うのではなく、「勉強しながら働きたい」という意思を職場にもオープンに伝えているそうです。学ぶことは、後ろめたいことじゃない。その気持ちが、自然と言葉になったといいます。
個別のスクーリングで、先生と向き合う時間
スクーリングは、一同に集まる形ではなく、個別に来校するスタイルです。先生と一対一に近い形で向き合える時間になるといいます。
普段は映像で一人で学んでいるぶん、この時間がとても大切に感じられるそうです。「自分のためだけに話してもらえる感じがして、ここで自宅で勉強していたことがより理解できることが多いです」とCさんは話してくれました。
孤独感については、「自分のタイミングで集中できるので、むしろ自分には合っています。孤独な感じはあまりないです」と穏やかに笑います。スクーリングのスケジュールは、あらかじめ職場に伝えて調整しているそうです。「ちゃんと話せばわかってもらえるんだなと思いました」と振り返ります。
Q&A「Cさんの本音」
Q. 中退の罪悪感、いつ消えた? 目標が曖昧のまま指定校推薦で大学に行ったので、中途半端な気持ちで進学したことの方が罪悪感でした。
Q. やりたい分野、いつ決まった? 大学を辞めようと思ったとき、次どうしようかと考えて決めました。やりたいことを決めて辞めたわけじゃなかったです。
Q. 通信制って、孤独じゃない? 自分のタイミングで集中できるので、自分には合っています。孤独な感じはないです。
Q. 職場との折り合い、どうつけた? スケジュールを事前に伝えています。学ぶことは恥ずかしくないので、オープンにしています。
3人の話には、共通しているものがありました

みんな、決断した後よりも、決断する前の方がずっと長く迷っていた、ということです。辞めていいのか、次はどうするのか、親にどう話すのか、年齢差は大丈夫か、通信で本当に学べるのか。頭の中でぐるぐると考え続けた時間が、それぞれにあったといいます。
でも実際に動いてみると、思っていたより怖くなかったことの方が多かったようです。入試は思ったスムーズだった。クラスメートとは思ったより自然に打ち解けられた。職場には思ったより受け入れてもらえた。「思っていたより」という言葉が、3人の話のあちこちに出てきました。
中退は、終わりではありませんでした。別のスタート地点に移動しただけだった、と3人とも、今はそう感じているようです。偏差値でも、年齢でも、大学中退という経歴でもなく、「自分が何をやりたいか」「どう学びたいか」を基準に選んだ場所で、それぞれが少しずつ自分のペースで歩き始めています。迷っている時間は、無駄じゃないと思います。それだけ真剣に考えているということだから。でも、迷いながらでも、一歩だけ動いてみると、見えてくるものがあるかもしれません。3人の話が、そのための小さなヒントになれたら嬉しいです。
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